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2019.12.01
COLUMN
プルキニエの風が吹く場所
House TA
風の抜ける場所。
マンションの一室のリノベーションデザイン。
陰鬱な空間になりがちなマンションの中廊下ですが、この物件は玄関とテラスの窓を通じて風と光が抜ける構造になっています。
私は良い建築からいろいろな言語を学びますが、そのひとつに「静謐」という言語があります。
「静謐さとはなんだろうか」
広辞苑によれば静謐とは「静かで落ち着いていること」とあります。
狭義な見方をすれば、建築は喋ったりするものではないので、総じて静謐なものでしょうが、広義な見方でいかようにも建築がありうるとするならば、私は静謐な建築というものに憧れを持ちます。
建築だけではなく、小説からも受け取ったものがたくさんあります。
その中のひとつでもいいので、物語の世界観に歩み寄れるような、そんな空間をいつもめざしています。
私にとって大きな作家の一人、江國香織の作品にこんな一節があります。
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空気に触れると、指先まで青くそまりそうだ。たよりない、もどかしい気持ちで、私はいつまでも手を窓の外にだしていた。
こういう青い夕方を、プルキニエ現象とよぶそうである。
(江國香織/ぬるい眠り)
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生活空間であれ、商業空間であれ、最もミクロな存在である「私自身の身体」が豊かな心象を獲得した瞬間を表した一節だと思います。
日没間際、部屋の明かりを消して世界が青々と染まっていくのを見ていると、江國さんの世界が、彼女が書いた世界がそこにあるようで心が総立ちになるのです。
住宅の設計において、使い勝手などは言うまでもなく充足することではありますが、「青い夕方の幸せと寂しさ」という静謐な世界観が表現できればと思っています。
山澤英幸
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